2016年5月31日火曜日

ここにある-西オーストラリア博物館・古生物学研究室

 西オーストラリア博物館・古生物学部門の有袋類化石を調査させていただきました。
大変丁寧に整理されている標本ケース。
一つ一つの引き出しが棚のどの位置に入るかも書かれています。
標本が上の引き出しにぶつからないための配慮です。


化石を見ていると、時に大変興味深い標本に出会うことがあります。
これはロック・ワラビーの一種の上下顎の標本です。
小さな瓶の中に入っていたのは歯胚でした。
大きいほうは上顎のP4とされ、石灰化がほぼ完了し萌出を待つ歯胚です。
かなり大きく、M1にかかるほどです。
もう一つはかなり小さい歯胚で、歯種は分かりません。
表面の様子からエナメル質形成が始まったばかりかも知れません。
偶然ではありますが、現生標本ではなかなか難しい状況が再現される場合があります。
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タスマニアオオカミの紹介に必ずといって良いほど使われる写真があります。
5000年前のミイラ化した非常に保存の良い貴重な化石です。
ここで出会えるとは思ってもいませんでした。
密閉された容器に入ったタスマニアオオカミの標本です。
Thylacinus cynocephalus (英名はThylacine タイラシン)
覆い布を開けた時には、息を飲みました。
特別な処理は施さず、発見時そのままの状態で保存されています。
 1936年に地上から消えてしまった肉食有袋類・タスマニアオオカミ。
悲しい遠吠えが聞こえるようでした。
 


2016年5月30日月曜日

Numbatに会うー西オーストラリア博物館

 パースにある西オーストラリア博物館に現生と化石の有袋類の標本を調べに伺いました。

西オーストラリア博物館は改装中で2020年にリニューアルオープンとのことでした。
この裏に建設する予定です。
郊外のウェルシュプールという町に移転していました。
巨大な倉庫が並び、ここに標本が収蔵され、研究室も併設されています。
 哺乳類の骨格標本が納められた部屋。
標本の調査はここでさせていただきました。
別の棚には有袋類の剥製(はくせい)標本が並んでいます。
液浸の標本室。
成体はもちろん胎児の標本まで整理されています。
動物園では会うことのできなかったナンバットの剥製標を見せていただきました。
背中から腰にかけて特徴的な縞模様があり、体長30cmほどの美しい標本です。
ビニールの透明なシートに覆われていましたが、見とれてしまいました。
和名の「フクロアリクイ」に示されるようにシロアリを常食とする有袋類です。
Myrmecobius rostratus
キツネや野生化したネコによって生息数が激減し、様々な保護策がとられているようです。
上顎と下顎の骨格標本。食性を反映して、吻部の長く、
歯列は縦長で歯はどれも小さく繊細です。
有袋類が専門の学芸員、Kenny Travouillon 博士。
標本の案内と研究の相談にのっていただきました。
 

2016年5月29日日曜日

有袋類に触れるーPerth Zoo

 実験で使用しているハイイロジネズミオポッサム(Monodelphis domestica)以外に有袋類に触ったことがありません。とにかく、生きた有袋類を見るためにパース動物園を訪ねました。
スワン川の対岸、サウスパースに10分ほどのフェリーの旅です。
木々がううっそうと茂り、子供連れが大変多く目につきます。
園内は地域ごとの展示になり、もちろんオーストラリア地区に時間を割きました。
お馴染みのカンガルーが出迎えます。低く張ったロープが観客との境界になっているだけです。
こんな光景に驚かされます。よけて通るのは人間のほうです。
キノボリカンガルーの仲間は14種あり、オーストラリアのクイーンズランド地方に2種で他はニューギニアに生息していますが、絶滅の危機に瀕しています。
長い尾はそのままですが、ものを握ることができる大きな前足と交互に動く太い後肢が樹状生活への適応を見せてくれます。
岩場に住む小さなカンガルー、ロック・ワラビーを見ることができました。
夜行性と警戒心の強さから目にすることの少ない仲間です。
カンガルー科(Macropodidae)のPetrogale 属に分類されるこの仲間には特殊な歯を持つ種類がいますが、ロック・ワラビーも絶滅が心配されています。
今回期待したもののひとつが、ナンバットNumbatです。
Myrmecobius fasciatus
肉食有袋類の仲間で、背中の後半に縞模様がある端正な小型の動物です。
パース動物園で撮影された写真で知りましたが、
残念ながらこの日は見ることができませんでした。
解説パネルに、ナンバットの新生児の写真があります。
このような知識が普通なのかなと、有袋類の大陸であることを改めて感じさせます。
生息域はオーストラリア西端に限られ、すでにそのうちの一種はごく最近に絶滅とされました。
コアラは、木に付属した塊のように寝ていました。(この子は眠ったまま糞をしていました)
Phascolarctos cinereus
歯式は3・1・1・4/1・0・1・4です(有袋類の基本歯式5・1・3・4/4・1・3・4)。
コアラの先祖は3000万年から2000万年ほど前には森林地帯に生息していました。その後乾燥化し、増えてきたユーカリの葉を食べる生活に入ったと思われます。歯の特殊化はその過程で生じました。
繊維と油分が多く、毒になる成分を含むユーカリを主食とする哺乳類は他にいませんが、栄養価が低いため眠ることで代謝を下げています。
ウォンバット(Wombat)も見ることができました。頭胴長は1mくらいでしょうか。
地下に巣穴を作って生活しますが、こう見えてもコアラとは近縁と言われています。
「カンガルーは進入禁止」と書かれているドアの前で。
ふわっと沈んでしまうほどの柔らかい手触りが忘れられません。
ディンゴはヨーロッパから人間と共に入ったイヌ(肉食有胎盤類)が現地化したものです。
有袋類が減少した原因とされています。ディンゴはその習性に従っただけで、ヒトという有胎盤類の侵入こそが問題をもたらしたと言えます。
パース動物園では野生とのかかわりについて様々な提言が至る所でなされていました。
オーストラリア地域の有袋類の一部に限りましたが、パース動物園にはまだまだ紹介したい動物がいます。
 夕暮れに浮かぶキングス・パークを眺めながら、帰りのフェリーに乗りました。
 


2016年5月28日土曜日

ユーカリの花ーKings Park

 パースに着いたらキングス・パークに行くように、南オーストラリア博物館のCatherine Kemper博士から勧められていました。
CATと呼ばれる無料の市内循環バスを利用しました。
市の中心から2キロも離れていないそうです。



Kings Park は広大な敷地の多くが植物園になっています。 

木々の切れ目から一気に開けた眺望。
海とも思えるスワン川は満々と水をたたえ、どちらに流れているのかわかりません。
巨木の頂に触れそうな、空中の回廊。
様々な植物が地域や生態系によって区分けされています。
葉はユーカリですが、これがユーカリの花だろうかと疑問でした。
大きな木で、アデレードでも目にしました。
つぼみですね。
案内板に、「荒れ地のダイヤモンド」・モトレカー。
Eucalyptus macrocarpa
納得しました。飾りつけにも使うそうです。
右下に気になる説明がありました。
「"Honey possum"が蜜を食べる」と書いてあります。
「フクロミツスイ」、
Tarsipes rostratus
花粉や蜜を食べる珍しい小さな有袋類です。
そのためか、歯は退化して小さく、歯式も( 2.1.1.3/1.0.0.3)です。
下顎は片側に切歯が1本、大臼歯が3本で他はありません。
分布;Wikipediaから
西オーストラリア特有の種類です。
1年中咲いた花を求めますので、これほど花に運命を左右される動物もいないような気がします。
白い種類もありました。
Large-fruited Mallee  Eucaliptus youngiana
 公園は結婚式の会場にもなるようです。
モトレカーをあしらっているかも知れません。



2016年5月27日金曜日

再び有袋類に会うーへその緒

26日の朝食後、宿舎の一角に数人が集まって何かをのぞいていました。
足元には動物の未熟な赤ちゃんが。
ここに住んでいるポッサムの赤ちゃんだそうです。
後脚が長く、目も開きかけています。まだ、動いていました。
何とかならないかとあわてました。ポッサムは保護の対象になっていたはずですから。
宿舎の管理人と相談することになり、事務室に運び込みました。
数日前にも少し大きい赤ちゃんがが落ちていたそうです。
南オーストラリア博物館にカンガルーの胎児、0日と11日目の新生児の標本が展示されています(目立たないのですが)。
0日。3cmくらいでしょうか。液浸なので大きさがよくわかりません。
前肢がしっかりとひもを握っているようにも見えます。長いはずの後肢が目立ちません。
へその緒のようなものが見えます。
11日目。まだ目が開いていませんが、しっかりした形になってきました。
これが胎児です。
説明では’臍帯(umbilical cord:さいたい;へその緒)でつながっている”と書かれています。
有袋類にへその緒が。
一般にはへその緒は有胎盤類に特有とされます。有袋類の胎児も卵黄嚢(黄身を入れた袋)から養分を摂りますが、その管のなごりを持つ仲間もいます(*有胎盤類では尿膜が主体になり
ます)。
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その時は、ポッサムのお腹をよく見ていませんでした。
ありそうな気もしますが、やはり無くなったかな。
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管理人のお話では、この子はボランティアの保護団体に渡されて、おそらく助かっただろうということでした。