2015年8月22日土曜日

日本列島の裂け目ーフォッサマグナをのぞく

 地質関係の学会が新潟県糸魚川(いといがわ)市で開催されました。糸魚川といえば「フォッサマグナ」・「翡翠(ひすい)」・「塩の道」が三題噺(ばなし)のように思い浮かびます。現地で実感することを楽しみにしていました。
糸魚川駅から大糸線に乗ります。大正時代のレンガ駅舎の一部が保存されています。
大糸線「根知(ねち)」駅下車。夏山に除雪車が映えます。
国道148号線沿いに入口がありました。根知川沿いのフォッサマグナ・パークを目指し緩い傾斜を登ります。
山道は整備され,案内板もあります。雨上がりで遠景は望めませんでした。
15分ほどで山道を登り切ったところにフォッサマグナFossa Magna(大きな溝)の西縁である「糸魚川―静岡構造線」が現れました。思わず深呼吸をしました。右手を根知川が流れます。
構造線が観察できるように人工的に切り開いた場所です。
背中側から足下を断層が通り,根知川に抜けて行きます。
西側は4億年前の地層で東側は1,600万年前の地層です(それぞれ変ハンレイ岩,安山岩と表示されています)。境界は幅1mほどの断層破砕帯があり不明瞭です(右写真は拡大)。断層の深さは石油採掘調査のデータ等から6,000m以上と考えられています。
一方,西と東の文化にもこの境界が反映しているようです。
現地案内板から
フォッサマグナは日本列島が形を現す時にできた大きな溝で当時は海でした。活発な火山活動や地殻変動によって海は埋められ現在の地形になりました。
溝の東側の縁は柏崎―千葉構造線,新発田―小出構造線によって区切られると考えられていますが,研究が進められています。
フォッサマグナはユーラシアプレートと北アメリカプレートという大きな地殻の板がぶつかり合ったところで,ヨーロッパとアメリカの境界にも当たります。
当時(1,400万年前)の海底火山活動を示すのが,崖に現れた俵を積んだような「枕状(まくらじょう)溶岩」です。
海底に流れ出した溶岩がチューブ状に冷やされてできた独特の形です。
案内板に説明がありました。
 日本最大の枕状溶岩を観察できます。矢印付近が中心で直径が12mに及び,地面近くでは角ばった柱状節理が放射状に走ります。(落石防御の鉄の支柱が視界を狭くしています)
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 フォッサマグナを発見・命名したのはナウマンゾウに名を残すドイツの地質学者ハインリッヒ・エドムント・ナウマンです。1875-85年に滞在したナウマンは日本の地質学研究の基礎をつくったといわれます。
糸魚川市内のフォッサマグナ ミュージアムには彼が書いた地図や調査で使用した道具等が展示されています。

2015年8月17日月曜日

ソウギョ(Grass Carp)と野尻湖ー生態系をのぞく

 お盆明け,野尻湖発掘調査団・哺乳類グループとして化石の調査・記載をしていました。
昨年3月,この付近は湖面が低下し第20次野尻湖発掘の現場でした。
今は観光客や釣り客でにぎわっています。
不思議なことに,湖畔で水草を見ることはありません。
野尻湖ナウマンゾウ博物館にソウギョ(草魚)が2頭,運び込まれていました。
体長は1m近くあり,体重は10kgを越える大物です(内臓は調査のため摘出)。
水草が見られない原因はこのソウギョです。
ソウギョCtenopharyngodon idellusは中国原産のコイ科の大型淡水魚です。
上下顎には歯がありませんが,のどの奥に咽頭歯を持っています。
ソウギョは毎日自分の体重と同じ量の水草を食べるといわれています。
 1970年代,生活排水が増加し湖は富栄養化しました。水草は繁茂して船にからみ付いたり悪臭の原因になりました。対策として,1978年5,000匹のソウギョを放流しました。
3年も経つとで水草は食べ尽くされ,産卵や住む場所を失った魚や小動物たちが消えました。1984年頃にはブラックバスやブルーギルが入り込み,ワカサギ等が減少しました。1988年,プランクトンの大発生による「淡水赤潮」に見舞われました。野尻湖の生態系は大きく変化していました。
(展示写真)
地元の人たちは野尻湖の自然を取り戻すために立上がりました。
野尻湖水草復元研究会がつくられ,博物館や小学校も活動を始めました。
人間が柵で保護地域を作り水草を守ります。
(展示写真)
ソウギョが侵入するとあっという間に草がなくなります。
用心深いため捕獲はなかなか難しく,2人がかりになることも。
(展示写真)
水草の回復には時間がかかります。地下茎からヒメガマが出てきた様子。
水中にもケージを置いて水草を守ります。小さなエビ等に食べられてしまうことも。
水草復元研究会から
ホシツリモ Nitellopsis obtusa(車軸藻類)という大変貴重な水草も絶滅しましたが,大阪医大に保存(1974年)されていることを知り,1995年から復元に取組んでいます。
ソウギョの放流から37年。自然を取り戻すことはこんなにも大変なことなのです。
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ソウギョの鱗(うろこ)とその拡大 。
骨鱗(硬骨魚の鱗)のうち,突起のある「櫛鱗(しつりん)」であることが分かります。

2015年8月8日土曜日

アクアワールド・大洗ーいばらきの海

 猛暑が続き,海風に吹かれたくなりました。
日本有数の規模の水族館が,茨城県大洗(おおあらい)町にあります。
水平線がはるかにかすみ,太平洋の波がすぐ近くまで押し寄せてきます。
近くの涸沼(ひぬま)は野鳥愛好家には有名です。
今年5月,水鳥のための湿地を守る国際条約の「ラムサール条約」に登録されました。
鹿島灘からの海水と河川が混じる汽水湖(面積7.2㎢)で両方の魚が住むため,釣り愛好家にも有名です。
 展示の図から
コイの仲間も多数生息しますが,コイの口には歯がありません。
喉(のど)の骨に歯があり,咽頭歯(いんとうし)と呼ばれます。
骨格の展示(別の場所)で,それを観察できます。
コイの頭を後から見ています。矢印が咽頭歯。
エラを支える鰓弓(さいきゅう)の腹面が骨化(咽頭骨)して歯が生えています。
この水族館はサメ・エイの展示・飼育が豊富で,こんなショーもあります。
エイの腹側には孔が並んだエラと横長の口があり,目のように見えるのは鼻孔です。
 マダラトビエイの骨格がありました。
舌のように見える上下の顎で,二枚貝をすり潰して食べます。
この顎には板状の歯が集合しています。
Marmaid's Purse (人魚の財布)と呼ぶ,卵の入った袋(卵鞘(らんしょう))を産むサメの種類がいます。海藻などにからませ,約1年で孵化します。
卵鞘からかえった幼いサメ達。
 イルカショーはいつも行列ができる水族館の目玉です。
ジャンプの迫力と人間との息の合った芸には歓声が上がります。
イルカは海生哺乳類で最も人間になじみ深い仲間でしょう。
イルカはハクジラ(歯鯨)の仲間です。
館内には2006年に茨城県の海岸に漂着したマッコウクジラが展示されています。
体長13.76m,25tの雄です。
マッコウクジラPhyseter macrocephalus:Sperm Whale
最大のハクジラで深海性でイカを主食としています。
 下顎だけ円錐形の同形歯が20対以上萌出します。上顎の歯は通常は萌出しません。
成長線を用いた年齢推定を示した展示がありました。
上顎歯を用いた結果16歳であることが分かりました。
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水族館は暑さを忘れさせてくれました。
展示にも様々な工夫を凝らし,子供達も大満足の様子でした。
今年4月、和歌山県太地町で伝統的に行われている「追い込み漁」を動物福祉の観点から容認できないとした世界動物園水族館協会(WAZA、本部スイス)が太地町からイルカを購入しているJAZA(日本動物園水族館協会)を会員資格停止処分としました。JAZAは加盟施設による投票でWAZAへの残留を決め,追い込み漁で捕獲されたイルカの入手禁止を発表して処分は解除されました。
 この問題は水族館の展示のありかた,海生哺乳類の保護,食の文化や伝統との関係などが様々にからみあって,まだまだ議論が必要でしょう。