2022年4月30日土曜日

ガンガラーの谷・サキタリ洞遺跡ー港川人の記憶

 沖縄島南部にある国内最大級の鍾乳洞「玉泉洞」の一部をなす「ガンガラーの谷」ガイドツアーに参加しました(2022/04/08)。人類学の大きな発見が続く「サキタリ洞遺跡」はツアーの出発点にあります。
(開けた窪地は石灰岩の溶食による崩落でできた陥没ドリーネ)
東側の洞口は窪地を下りた所に開いて、奥は「ケイブ・カフェ」が営業されパラソルが天井の「つらら石」(鍾乳石)からの水滴を受けています。
平面図:沖縄県立博物館・美術館 2018 『沖縄県南城市サキタリ洞遺跡発掘調査報告書』に加筆
 サキタリ洞の入口は東側(図の下側)にあり床面積は約620m2、天井の高さが約7mあり、床の標高は約40mです。港川人が生活していた最終氷期最盛期には海面が120mほど低下したとするとこの付近の標高は150m以上あったことになります。
 西側の洞口への階段を登り、振り返るとシートに覆われた「調査区II」がみえます。日本最古(9,000年以上前)の埋葬人骨が出土しています。
 西側洞口階段付近の「調査区I」。6点の人骨(幼児の環椎、上顎乳犬歯、下顎第三大臼歯、肋骨、手根骨、足根骨)(23,000年~14,000年前)、石英製の石器(14,000年前)、世界最古の釣り針(23,000年前)を含む豊富な貝器、日本最古の貝製の彩色装飾品(23,000年前)、食糧と思われる1万点以上のモクズガニやカワニナ遺体など重要な発見が相次いでいます。炉址と思われる焼跡(35,000年前〜)も検出されています。
山崎ほか:沖縄県南城市サキタリ洞遺跡の発掘調査(2009 2011 年),人類学雑誌(2012)
旧石器人の一例
 西側洞口の外側にある「調査区III」。動物遺物や人工物は少ないが貝類、甲殻類、石英が出土しています。
 サキタリ洞遺跡は人骨と道具が一緒に出土することで旧石器人の存在を確実にし、縄文時代まで長期間利用されてきたことで沖縄人の系統や文化の連続性の検証を可能にしました。
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 サキタリ洞を出るとクワズイモが生い茂り,アカギが立ち並び,オオタニワタリなどのシダ類が亜熱帯の緑を広げています。
(「歩くガジュマル」の説明)
ガジュマルの気根の支柱根(幹を支える)は長い年月で入替わることで樹木が移動します。
ツアーは右手に「雄樋(ゆうひ)川」をみながら進みます。35,000〜10,000年前の地層から産出している大量のモクズガニやカワニナ、最古の釣り針と同じ地層(23,000年前)から産出するオオウナギなど旧石器人の食料調達の大事な川だったのでしょう。
川の対岸にある崖の断面には鍾乳石が露出しています。雄樋川はサキタリ洞のある石灰岩層と右の石灰岩層で造られた大きな鍾乳洞の天井が崩落してできた谷(カルスト谷)を流れ下っています。

支給されたランタンをかざし「イキガ洞」に入ります。
つらら石は下流に向かって傾いているのが不思議ですが、中の巨大なつらら石は男神として祀られています。つらら石が下流に向かって傾いているのが不思議です。近くの「イナグ洞」には女神が祀られています。
ツアーは途中から引き返しますが、恵みの雄樋川は祈りの場であるイキガ洞を下り「港川人」の遺跡を通って太平洋に流れ込みます。
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 ツアーの人気スポット「大主(うふしゅ)ガジュマル」。
樹高20m、樹齢150年のガジュマル。見えるところのほとんどが太さや感触がさまざまな気根です。天と地をつなぐように垂れている姿は巨大な生き物を感じさせます。

「天然橋」と呼ばれる鍾乳洞の天井が露出した地形も異質な雰囲気を強調します。
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上のスケッチはガイドさんの説明図。下はテラスからの遠景。
ガンガラーの谷を上から望むように造られたツリー・テラスで遺跡の説明を受けます。海沿いを通る道路の丸で囲ったあたりが港川フィッシャー遺跡(22,000年前)です。ここから1.5kmの距離で雄樋川に沿った標高20~30mの石灰岩層にあります。
ツリー・テラスを降りてツアー最後の遺跡「武芸洞」に向かいます。

沖縄県立博物館・美術館 2010 『沖縄県南城市武芸洞遺跡発掘調査概要報告書』

 武芸洞はサキタリ洞と同じ洞穴群(玉泉洞ケイブシステム)に属します。縄文時代にあたる2,500年前の石棺に埋葬され貝製のブレスレットを装着した人骨、6,000年前の爪型文土器の貴重な発見がありました。港川人とのつながりが解明されるのを待っているようです。
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    山崎ほか:沖縄県南城市サキタリ洞遺跡の発掘調査(2009 2011 年),人類学雑誌(2012)

 歩く距離約1km、所要時間約80分の「ガンガラーの谷」ガイドツアーは沖縄島南部の自然と地史を満喫しながら人類史研究の現在を知ることができる貴重な経験でした。
 2009年1月末、日本古生物学会の会場となった沖縄県立博物館・美術館で「港川人」に会いました。故郷に戻った実物の標本からは強い迫力と安堵を感じました。この返還(3号と4号標本)を期に沖縄の旧石器人関連の発見が増加し空白を埋めていくような印象があります。
  沖縄の石灰岩は貴重な旧石器人骨を残し最新の遺伝子解析の可能性を提供しています(Scientific Reports  11,  12018 (2021)など)。新しい発見が楽しみです。