2016年12月27日火曜日

野尻湖,そして海の哺乳類−信州新町化石博物館



 クリスマス気分を切替えるように,12月25日から野尻湖発掘調査団・哺乳類グループの調査合宿に加わりました。
          黒姫駅から眺める黒姫(左)と妙高(中央右)
         今回はオオツノジカの記載を担当します。
(博物館の近藤氏と哺乳類Gの間島氏(オレンジ))
20年以上も発掘間隔が離れている化石が奇跡的に接合しました。
詳細は発表までの楽しみにしておきましょう。
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見ておきたい化石のある長野市内の博物館に足を伸ばしました。
バスが出るまで,善光寺の門前で「おやき」をいただきました。
長野駅からバスで40分。犀川(さいがわ)沿いに山間部に入っていきます。
信州新町化石博物館。
この地域にいた海生哺乳類の化石が展示されています。
信州新町付近からはクジラの化石が多産しています。
頭の部分から口の先までが出土した500万年前のセミクジラ。
上顎骨の前部が下に曲がるセミクジラの特徴を持ちます。体長15m前後と推定されています。
最初の発見は1938年でしたが,新種の「シンシュウセミクジラ」Eubalaena shinshuensis 
として2007年に記載されました。セミクジラとしては世界最古です。
こちらはセイウチの仲間,「オントケトゥス 」Ontocetus sp.
450万年前に生息していました。
この立派な頭蓋標本も「オントケトゥス」。
体長は3~4mと推定されています。
現生のセイウチと比べると犬歯が短く強く下を向いています。そしてセイウチでは失われた切歯を持っています。
アシカの仲間(Otariidae)の下顎。安曇野(あずみの)市で産出。
1,300万年前の世界最古の化石です。これまではカリフォルニアから出土した700万年前のピタノタリア(Pithanotaria)が最古とされていましたので,600万年も古いアシカの先祖となります。
ダイカイギュウの仲間「ドゥシシーレン」Dusisiren sp.の肋骨。北太平洋に生息していた大型の海牛の仲間。
これは400万年前の化石ですが,ヒトの乱獲によってつい250年ほど前に絶滅しました。
アザラシに近い仲間の「アロデスムス」Allodesmus sinanoensis (デスマトフォカ科)
1,500万年前。松本市から出土。
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日本列島の中央に位置し山岳地帯でもある長野県から海生哺乳類の化石が産出するのは,
当時,北(今の日本海側)から大きな古信州湾が広がっていたと考えられています。
博物館ホームページから
(*権田層のヒゲクジラが「シンシュウセミクジラ」を示します)
博物館の展示から
一方,この付近からはゾウやシカなどの陸生哺乳類化石も産出します。北アルプス付近に生息していたのでしょうか。
隣接する美術館(手前)と有馬生馬記念館(赤い洋館)。

2016年12月18日日曜日

初めての野外学習・千駄堀ー松戸夜間中学

 松戸夜間中学の12月の理科(55回目)は野外学習としました。
公園中央口に9時10分集合,12時解散の日程です。
快晴の朝にひと安心です。
夜間中学から6名、日大松戸歯学部の1年生が1名参加しました。
博物館入口の「ネズミモチLigustrum japonicum(モクセイ科)」の黒い実が朝日に映えます。
今日の順路です。
集合(公園中央口)→湧水→パークセンター→野鳥・生態園(自然観察舎と自然生態園)→みどりの里→(斜面を登り)→竪穴住居(縄文の森)
公園に入ると樹木の幹に注意書きがありました。
竹筒がぶら下がっているものもあります(上)。
自然観察舎に展示されていた「ドロバチの仲間(オオフタオビドロバチなど)」(下)。この仲間の調査でしょうか。
 千駄堀は台地(下総(しもうさ)台地)の縁が侵食されて低地が入り込んだ「谷津(やつ)」地形です。公園の奥は崖で行き止まりになり、湧水の場所があります。
湧水は千駄堀の命の源であり、かつては一帯の水田を潤していました。
現在は水が湧き出す様子を見ることはできません。
用水(岩は人工的に配置したものです)のきわには「クレソン」が目につきます。
*「オランダガラシNasturtium officinale(アブラナ科)」ですが、明治時代に料理用に入ってきた外来種で、繁殖力が強く日本の在来種がなくなってしまうので「要注意外来生物」に指定されています。
パークセンターで千駄堀の情報を収集します。
千駄堀の成り立ちや四季の動植物が展示されています。
公園では絶滅してしまった「メダカOryzias sakaizumiiとOryzias latipes」とそれに取って代わった「カダヤシGambusia affinis」の比較です。よく似ていますが、系統は離れています。
*カダヤシは1915年頃日本に持ち込まれましたが、繁殖力が強く在来の淡水小型魚には絶滅が心配される例が出てきました。現在は「特定外来種」として飼育が制限され放流は禁止されています。
池沿いの木道の下には「ヤブソテツCrytomium fortunei(オシダ科)」(シダ植物)が茂っていました。
 裏側に白い斑点状の「胞子嚢」を持つ葉もありました。
そして「ジュズダマ(数珠玉)」(Coix lacryma-jobi:イネ科)も発見。
品種改良したものが食用の「ハトムギ」です。
自然観察舎で野鳥を探します。
タカの仲間の「ノスリButeo japonicus」が観察されました。
「オオバンFulica atra(ツル目オオバン科)」が群れをなして近くまで来ます。
「カワセミ Alcedo atthis bengalensis(カワセミ科)」の姿に歓声が上がりました。
日本各地の水質の悪化と河岸がコンクリートで固められたことによって、生息数が減っていました。今日の収穫の一つです。
11時から自然生態園の観察ツアー(30分)に参加。
解説員のかたに植物を中心に案内していただきました。
昔は深い田んぼがあった場所をのぞみます。
斜面を登って縄文の森へ。台地(標高約20m)の標高差を感じます。
台地の上から、縄文時代には海につながっていた千駄堀の低地を眺めたことでしょう。
貝の花貝塚(縄文中〜後期)の遺構を復元した竪穴式住居に入りました。
遺跡に詳しい参加者を中心に楽しい話し合いになりました。
焚き火の煙にも慣れ,縄文時代の生活を思い浮かべます。
竪穴住居の入り口で集合写真に収まり、解散しました。
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この付近には縄文草創期(12,000~9,000年前頃)の「出来山遺跡」があり、発掘の様子を見学した記憶があります。
千駄堀では地形,動植物,歴史などのさまざまな面が学べます。

2016年12月14日水曜日

歯を学ぶー歯科技工士学校の解剖学

 今年(2016年・平成28年)の3月、技工士学校(愛歯技工専門学校)の一年生(現2年生)の解剖体見学実習を鶴見大学(講師:口腔解剖学・下田信治教授)のご協力で実施しました。
まず、骨学実習から始めました。頭蓋骨を用い顎の運動を学びます。
解剖室での実習は黙祷に始まり黙祷で終わります。
人体の構造を丁寧に見ていきます。
口腔の領域を全身の構造と関連付けていきます。
少ない機会を無駄にしないように真剣に話を聞きます。
そして各自が、用意された様々な部位の標本を積極的に観察していきます。
教科書・講義での下地がないと説明が理解できないこともわかります。
筋・神経の立体的な走向などは実習を通して改めて理解されます。
学生は大きな感動を持って帰路につきました。
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 新入生は解剖学のはじめに「1本の歯が与えられた時、どこに生えている歯かを根拠を持って示すことができる」ことを目標にします。
模型を使った講義・実習から、前期の終了近くには天然歯を鑑別する実習に入ります。
変異があり咬耗の進んだ天然歯はなかなか鑑別が難しい。
模型の理想的な形と現実の形態をどう結びつけるか。
個人の鑑別のあと、グループで討論します。
最後に、班ごとの鑑定結果を発表していきます。
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後期は口腔解剖学・組織学・発生学が中心になります。
1年間のプログラムで身につけた基礎的な解剖の知識が、次のステップの糧(かて)となりますように。
(当該学年を担当された、田中誠・教務部長、遠藤芳乃・専任講師に感謝いたします)

2016年12月12日月曜日

カンガルーにヘソの緒はあるのか?ーNature Seminar #14

 今年のネイチャー・セミナーは「有袋類の解剖学」で閉じることになりました。
タイトルの写真はタロンガ動物園(シドニー)の解説板です。
お菓子のジェリービーンのようなカンガルーの新生児。
「ヘソの緒」を付けてお母さんの乳首を目指しているようです。
この疑問は、最初に滞在したアデレードの南オーストラリア博物館の目立たない標本から始まりました。
"Umbilical cord"はヘソの緒のことです。ガラス容器の中にヘソ付近からヒモを付けた胎児がいます。端に付いているのは胎盤でしょうか。
シドニーのオーストラリア博物館でも、標本室の中から出していただきました。
たしかにヘソの緒にみえます。
私たち真獣類(有胎盤類)は尿膜(の血管)を胎児側の胎盤として母体とつながります。
有袋類の胎盤は卵黄嚢を胎児側とします。しかし、母体とのつながりは弱いのです。
右の図は有袋類の中でも胎盤の形態には多様性があることを示しています。
From ”Textbook of Veterinary Histology” (1976)
この写真は妊娠3週のイヌの胎児(番号1)の様子です。
大きな卵黄嚢(4)が卵黄嚢胎盤(6)を形成しています。
しかし、この胎盤は発生が進むにつれて尿膜性の胎盤に置き換えられます。
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多くの真獣類でも一過性には卵黄嚢胎盤をつくり、(絨毛)尿膜胎盤に移行して出産します。強い母体とのつながりが太いヘソの緒となります。
 私の生後間もないオポッサムの腹部にもヘソの緒の痕跡は見つかりませんでした。
多くの有袋類は尿膜胎盤に移行することなく未熟な子供を産み、ヘソの緒は出産時には消えてしまうようです。(案内板の写真もジェリービーンとヘソの緒との関係は微妙な気がします)
今回の参加者は"Nature Seminar"を始めた時のメンバー(海老原先生・診断学、楠瀬先生・生物学、上田先生、疋田先生・矯正学)になりました。
 ”参加したいのですが卒業試験を控えていますので”、と伝えてきた6年生が2名いたことを書き留めておきましょう。