2016年6月7日火曜日

シドニー,歴史の街


 週末のシドニーはテレビでも被害が報道されるほどの悪天候でした。
シドニーの温暖湿潤気候はアデレードやパースの地中海気候とは違った肌感覚があります。
ワールドスクエアー付近のゲリラ的な豪雨。
クイーン・ビクトリア・ビル(1898年完成)。
大規模なショッピングモールになっています。
ピット通りを北上してシドニー湾のサーキュラー・キー(Circular Quay:観光船等の船着場。オペラ・ハウスがあります)に向かいます。
市街はかなりの起伏があり,複雑な地形を反映しています。
シドニー湾西側に架かる巨大なハーバー・ブリッジ(1932年建設)も横なぐりの雨にかすみます。
シドニー湾は,太平洋に面するポート・ジャクソン湾の入り江の1つで,リアス式海岸を形成する溺れ谷です。縄文海進のオーストラリア版ともいえます。
地図で見ると複雑な海岸線がわかります。
ハーバー・ブリッジの傍らの”ロックスRocks”と呼ばれる一帯は,近代的な”シティCity”のビル街とは対照的な古い街並を残しています。
”ファースト・インプレッション”と呼ばれるモニュメントが置かれ,イギリスからの最初の入植を記念しています(1788年1月:現在のオーストラリア・ディは1月26日)。説明のパネルには11艘の船で約1,500名が到着し,内780人近くが囚人だったと記されていました。”ロックス”の名の通り,背後には切り立った岩の崖がそびえています。
サーキュラー・キー東岸の砂岩の崖。向こう側は王立植物園
 チャールズ・ダーウィンは「ビーグル号航海記(1845)」の中で,”1836年1月12日。早朝,軽風は我々をポート・ジャクスンの入口に向かって運んだ。立派な家を散在させた緑の土地を見る代わりに,黄色を帯びた直線状の崖は,我々の心にパタゴニアの海岸を思わせた。・・・・湾内に入れば,水平な層をなす砂岩の崖の海岸が壮観で,すべて広々とした大規模なものに見えた。・・・遂に我々はシドニー湾内に碇泊した。多くの大船が繋って,倉庫をめぐらせた内港があった。・・”
と記述し,市内を巡り入植から50年も経たないシドニーの繁栄を賞賛しています。
 週が明けると天気は回復し,オペラハウスが青天に映えます。
オペラハウスから望むサーキュラー・キー。右手にロックスの倉庫街が見えます。
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1942年5月31日から6月1日にかけて日本軍の3隻の小型潜水艦がシドニー湾に侵入し,魚雷攻撃を受けて21人のオーストラリアとイギリスの兵士が死亡しました。

3艘とも沈められ,2艘は引揚げられました(当時の写真)。
2006年,謎だった残る1艘が発見されました。(オーストラリア博物館のHPから)
 74年前の今頃,中心都市シドニーはどれほどの驚きと混乱と憎悪の中にあったでしょう。第二次世界大戦ではオーストラリアの敵は赤道を越えた日本でした。
博物館の歴史展示の前を通るたびに考えさせられます。

2016年6月6日月曜日

小型有袋類に会うーフクロミツスイ・フクロモグラ

 オーストラリア博物館の陸生脊椎動物部門で現生の小型有袋類を堪能しました。
食性との関連がはっきりしている例があります。

この小さなネズミのような有袋類は
フクロミツスイHoney Possum
Tarsipes rostratus です。
以前ユーカリの花の蜜を吸う有袋類として紹介しました(5/28)。
体長は10センチに満たなく,メスが大きい。
(学名のTarsipes spenserae はシノニム:同一種の異名)
顎の形状,特に下顎は棒の様に細くなっています。
(1目盛り7mm)
歯式はI2/1 C/1/0 P1/0 M3/3=22。
歯は小さくなり広い歯隙をもち,
この標本では大臼歯が2本に減っています。
細長い空隙を舌を使って蜜を吸うのでしょうか。
こちらは金色の毛皮を持った
フクロモグラSouthern marsupial mole :
Notoryctes typhlops
もちろん有袋類である。
顎には明瞭なトリボスフェニック型臼歯(哺乳類の祖先型の臼歯)が植立し,
口蓋がしっかりと食物を抱え込むように発達し,
がっしりとした頭蓋も咀嚼機能の充実をうかがわせます。
地中の昆虫類やその他の小動物を餌としています。
珍しい標本の案内や文献の助言もいただいた学芸員の
サンディ博士 Dr Sandy Inglebyと。
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博物館を出るとハイド・パークから望む夕空が,シドニー湾の方角に広がっていました。

2016年6月3日金曜日

Holotype (完模式標本)に会う-オーストラリア博物館・シドニー

 6月2日,西海岸のパースから東海岸のシドニーへの移動です。
    直線距離でおよそ4,800km,飛行機で約5時間。
Googleより。
主な訪問地:アデレード,パース,シドニー,メルボルン,カンガルー島。
国内の時差が2時間あるので昼の出発で到着は夜になりました。
最初の滞在場所,ワールドスクウェア付近のにぎわい。
翌3日朝,オーストラリア博物館を訪れました。
ハイド・パークに隣接する,クラシックとモダンが融合したような建物です。
古生物学の収蔵庫に案内されると,
史上最大の有袋類,ディプロトドンDiprotodon optatum の頭蓋化石が置いてありました。
今回お世話になったコレクションマネージャーのRoss Pogson 氏(専門は鉱物学)。 
さっそく,展示室のディプロトドン(背景の復元像)を案内してくださいました。
約200万年前から25,000年前まで生息していた,現在のウォンバットやコアラの仲間です。
オーストラリア博物館所蔵
ディプロトドンの臼歯は草食動物の特徴を持ち,歯冠はセメント質で覆われていました
拡大して他の動物との類似点や相違点を探します。
その日の終了近く,Pogson氏は鍵付きの収蔵庫に案内してくれました。
この区域には普段は目にすることができない特別の標本があります。
貴重な,ホロタイプ(holotype:完模式標本)が収蔵されています。
ホロタイプは動物の学名を登録するための基準になった標本(通常はタイプ標本と呼ぶ)で世界に一つしかありません。

そのひとつ,Diprotodon australisのタイプ標本,そしてその時の論文です。
<現在は Diprotodon optatum にまとめられています>
オーストラリア博物館には哺乳類を含む膨大な数のタイプ標本が収められていました。
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半月の滞在で有袋類が身近に思えるようになってきました。
パラレルワールドを見るような気持ちは残っていますが,有袋類がこのまま地球上に存在できる環境を具体的に考える必要を感じています。
ハイド・パークから眺めたオーストラリア博物館。



2016年6月1日水曜日

臼歯は止まらないーNabarlekに会う

オーストラリアでぜひ会ってみたいカンガルーがいました。
生え替わり続ける臼歯を持つ小さなワラビー(小型のカンガルー)です。
ミュージアム・ショップに売っている小さな図鑑(ガイドブック)にも載っています。
どんな歯なのか,気になっていました。
西オーストラリア博物館所蔵・現生標本
これがヒメイワワラビー Nabarlek 
Petrogale concinna 
(カンガルー科 イワワラビー属)
の頭蓋骨です。
上下の顎には小臼歯が1本と5本の大臼歯が見えます。
有袋類の基本歯式は大臼歯4本です。
古生物学部門の化石標本にも当たってみました。
西オーストラリア博物館所蔵・古生物学部門
Petrogale 属の棚の中を探すと,気になる標本がありました。
歯冠先端が顔を出した第四大臼歯の遠心(左)に,5番目が歯胚の状態で埋まっています。
この標本は P. concinna に分類されると思います。
Petrogale 属の他の種は第四大臼歯の遠心(右)は顎骨がしっかり閉ざされています。
ヒメイワワラビー(上記ガイドブックの写真から)
ハ虫類の多生歯性から哺乳類の2生歯性への移行は謎の多い問題です。
この不思議な歯を持った小さなカンガルー(ワラビー)が鍵を握っているかも知れません。しかし残念なことに,絶滅の危機にあるとのことです。
お世話になった,古生物部門のMikael Siversson 博士とCassia Piper 技官(女性)。
コーヒータイムがなかなか楽しい。

2016年5月31日火曜日

ここにある-西オーストラリア博物館・古生物学研究室

 西オーストラリア博物館・古生物学部門の有袋類化石を調査させていただきました。
大変丁寧に整理されている標本ケース。
一つ一つの引き出しが棚のどの位置に入るかも書かれています。
標本が上の引き出しにぶつからないための配慮です。


化石を見ていると、時に大変興味深い標本に出会うことがあります。
これはロック・ワラビーの一種の上下顎の標本です。
小さな瓶の中に入っていたのは歯胚でした。
大きいほうは上顎のP4とされ、石灰化がほぼ完了し萌出を待つ歯胚です。
かなり大きく、M1にかかるほどです。
もう一つはかなり小さい歯胚で、歯種は分かりません。
表面の様子からエナメル質形成が始まったばかりかも知れません。
偶然ではありますが、現生標本ではなかなか難しい状況が再現される場合があります。
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タスマニアオオカミの紹介に必ずといって良いほど使われる写真があります。
5000年前のミイラ化した非常に保存の良い貴重な化石です。
ここで出会えるとは思ってもいませんでした。
密閉された容器に入ったタスマニアオオカミの標本です。
Thylacinus cynocephalus (英名はThylacine タイラシン)
覆い布を開けた時には、息を飲みました。
特別な処理は施さず、発見時そのままの状態で保存されています。
 1936年に地上から消えてしまった肉食有袋類・タスマニアオオカミ。
悲しい遠吠えが聞こえるようでした。
 


2016年5月30日月曜日

Numbatに会うー西オーストラリア博物館

 パースにある西オーストラリア博物館に現生と化石の有袋類の標本を調べに伺いました。

西オーストラリア博物館は改装中で2020年にリニューアルオープンとのことでした。
この裏に建設する予定です。
郊外のウェルシュプールという町に移転していました。
巨大な倉庫が並び、ここに標本が収蔵され、研究室も併設されています。
 哺乳類の骨格標本が納められた部屋。
標本の調査はここでさせていただきました。
別の棚には有袋類の剥製(はくせい)標本が並んでいます。
液浸の標本室。
成体はもちろん胎児の標本まで整理されています。
動物園では会うことのできなかったナンバットの剥製標を見せていただきました。
背中から腰にかけて特徴的な縞模様があり、体長30cmほどの美しい標本です。
ビニールの透明なシートに覆われていましたが、見とれてしまいました。
和名の「フクロアリクイ」に示されるようにシロアリを常食とする有袋類です。
Myrmecobius rostratus
キツネや野生化したネコによって生息数が激減し、様々な保護策がとられているようです。
上顎と下顎の骨格標本。食性を反映して、吻部の長く、
歯列は縦長で歯はどれも小さく繊細です。
有袋類が専門の学芸員、Kenny Travouillon 博士。
標本の案内と研究の相談にのっていただきました。