2016年1月16日土曜日

有袋類の研究現場から

 有袋類のオポッサムを用いて歯の発生や顎の発生を調べ,有胎盤類との発生様式を比較しヒトを含む哺乳類の進化の歴史を描くプロジェクトを進めています。
ハイイロジネズミオポッサムMonodelphis domestica マウスより少し大きい程度
 金曜日(1/15)朝に松戸歯学部動物センターでオポッサムの出産(6頭)を確認しました。
2010年基礎歯科医学会発表画像
オポッサムは有袋類ですが袋(育児嚢)はありません。
産まれた子供は母親のお腹にはい登り,乳首をくわえて大きくなります。
新生児をその日のうちに東北大学大学院医学研究科のある仙台市に運びました。
共同研究者の若松義雄先生は,神経堤(しんけいてい)という頭部の構造(顎の骨や筋,歯など)をつくるユニークな細胞を専門に研究しています。
松戸から仙台までの移動の時間に実験の準備を整えます。
頭部は顎の発生実験に用い,胴部からは線維芽細胞を採取して神経堤細胞に戻す(リプログラミング)実験に供します。
モニターに写し出された作業の様子
 小さなピンセットとハサミを使って顕微鏡下で作業をします。
根気と集中力が求められます。
胴部から切出した組織をカミソリで細切します。
胴体の結合組織は細胞を分離する処理をします。
分離した細胞は遠心器で沈殿させます。
細胞をいくつかに分けて培養液を入れます。
細胞が増殖していけば,最終的には線維芽細胞の集団が残るはずです。
顕微鏡下で頭部から顎を切出します。写真は下顎です。
切出した下顎を培養液に浸します。
歯胚のできかたと顎の部位による遺伝子発現の違いを調べる実験に供します。
術者は若松義雄先生(共同研究者:東北大学)。
恒温器に培養液に入れた結合組織の細胞や下顎を収めます。
これからその動向を逐次観察します。
翌日,仙台市内は雪の朝を迎えました。
恒温器の実験試料はこの時点ではまずまずの状態でした。
新生児の一部は処理をして松戸歯学部に持ち帰り,形態や組織の研究に使います。
**************
実験の現場を紹介しましたが,研究の一部は学会発表や論文として公にしています。
しかし,有袋類の組織や個体の培養はまだまだ未知の部分が多く試行錯誤を繰り返している状態です。発生研究には大きな武器になります。
飼育・繁殖を含めて実験には根気とテクニックとアイディアが求められますが,オポッサムから新しい知見が得られることを期待してこれからも続けていきます。



0 件のコメント:

コメントを投稿