実験で使用しているハイイロジネズミオポッサム(
Monodelphis domestica)以外に有袋類に触ったことがありません。とにかく、生きた有袋類を見るためにパース動物園を訪ねました。
スワン川の対岸、サウスパースに10分ほどのフェリーの旅です。
木々がううっそうと茂り、子供連れが大変多く目につきます。
園内は地域ごとの展示になり、もちろんオーストラリア地区に時間を割きました。
お馴染みのカンガルーが出迎えます。低く張ったロープが観客との境界になっているだけです。
こんな光景に驚かされます。よけて通るのは人間のほうです。
キノボリカンガルーの仲間は14種あり、オーストラリアのクイーンズランド地方に2種で他はニューギニアに生息していますが、絶滅の危機に瀕しています。
長い尾はそのままですが、ものを握ることができる大きな前足と交互に動く太い後肢が樹状生活への適応を見せてくれます。
岩場に住む小さなカンガルー、ロック・ワラビーを見ることができました。
夜行性と警戒心の強さから目にすることの少ない仲間です。
カンガルー科(Macropodidae)のPetrogale 属に分類されるこの仲間には特殊な歯を持つ種類がいますが、ロック・ワラビーも絶滅が心配されています。
今回期待したもののひとつが、ナンバットNumbatです。
Myrmecobius fasciatus
肉食有袋類の仲間で、背中の後半に縞模様がある端正な小型の動物です。
パース動物園で撮影された写真で知りましたが、
残念ながらこの日は見ることができませんでした。
解説パネルに、ナンバットの新生児の写真があります。
このような知識が普通なのかなと、有袋類の大陸であることを改めて感じさせます。
生息域はオーストラリア西端に限られ、すでにそのうちの一種はごく最近に絶滅とされました。
コアラは、木に付属した塊のように寝ていました。(この子は眠ったまま糞をしていました)
Phascolarctos cinereus
歯式は3・1・1・4/1・0・1・4です(有袋類の基本歯式5・1・3・4/4・1・3・4)。
コアラの先祖は3000万年から2000万年ほど前には森林地帯に生息していました。その後乾燥化し、増えてきたユーカリの葉を食べる生活に入ったと思われます。歯の特殊化はその過程で生じました。
繊維と油分が多く、毒になる成分を含むユーカリを主食とする哺乳類は他にいませんが、栄養価が低いため眠ることで代謝を下げています。
ウォンバット(Wombat)も見ることができました。頭胴長は1mくらいでしょうか。
地下に巣穴を作って生活しますが、こう見えてもコアラとは近縁と言われています。
「カンガルーは進入禁止」と書かれているドアの前で。
ふわっと沈んでしまうほどの柔らかい手触りが忘れられません。
ディンゴはヨーロッパから人間と共に入ったイヌ(肉食有胎盤類)が現地化したものです。
有袋類が減少した原因とされています。ディンゴはその習性に従っただけで、ヒトという有胎盤類の侵入こそが問題をもたらしたと言えます。
パース動物園では野生とのかかわりについて様々な提言が至る所でなされていました。
オーストラリア地域の有袋類の一部に限りましたが、パース動物園にはまだまだ紹介したい動物がいます。
夕暮れに浮かぶキングス・パークを眺めながら、帰りのフェリーに乗りました。