2015年12月21日月曜日

海牛に会いにー鳥羽水族館

 海牛の仲間(ジュゴン,マナティ)は日本からも化石が出ますし,沖縄にはジュゴンが3頭生息していることがわかっています。
 日本の水族館で飼育されているジュゴンは1頭のみ。鳥羽水族館で見てきました。
Dugong dugon 海牛目ジュゴン科ジュゴン属はこの1種のみです。
絶滅危惧種。
フィリピンから贈られた「セレナ」,指定30歳のメス。260cm, 379kg 。 
水槽の中で悠々と泳いでいます。
おだやかな微笑むような顔です。
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マナティはジュゴンと共通な先祖から別れた仲間と考えられ,淡水域に適応している。
「アフリカマナティ」 Trichechus senegalensis 海牛目マナティ科
魚やカメが一緒に泳ぐ水槽にいます。
動きがジュゴンと違ってユーモラスでした。
仰向けになって動きません。
寝ているのかどうか。。。。
ゆっくり体を横にして,
むっくりと起き上がりました。
泳ぎが遅いわけではないのですが,雰囲気があります。
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海生哺乳類の鰭脚(ききゃく)類も飼育されています。
「バイカルアザラシ」Phoca sibirica 食肉目アザラシ科
唯一の淡水性アザラシ。
透明度が高いバイカル湖で視覚を発達させました。
日本近海でもおなじみの「ゴマフアザラシ」Phoca largha 食肉目アザラシ科。
「イロワケイルカ」Cephalorhynchus commersonii 
クジラ目ハクジラ亜目マイルカ科。
パンダイルカとも呼ばれます。
南アメリカ南端に生息し,非常に速い動きで泳ぎます。
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大型海生哺乳類の代表格,セイウチのショー。
食肉目セイウチ科 Odobenus rosmarus
500kg~1tになります。
オスは1mにもなる巨大な牙(きば)をもっています。主に貝類や甲殻類を食べているセイウチにとってどんな意味があるのでしょう。
臼歯は見たことがありますか?
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 水族館(動物園)のショー的な’展示’についての考え方も受けとめ方も様々です。昨年のイルカの追い込み漁の問題から派生したWAZA(世界水族館動物園協会)の通告は野生動物のありかたに一石を投じたものでした。
水族館は研究,教育,保護についても大きな役割を持っています。


2015年12月7日月曜日

多幸の島ー日間賀島・三河湾

離島を旅してきました。
愛知県南知多町にある日間賀島(ひまかじま)。
名古屋から名鉄で約1時間の河和(こうわ)からフェリーに乗り,約20分です。
島の近くの縞々模様の岩礁。砂岩・泥岩・凝灰岩が互層になった師崎(もろさき)層です。
 到着の東港に近づきました。師崎層の露頭が見えます。
港では蛸壺が出迎えます。
日間賀島はタコ漁で有名です。タコにまつわる言伝えもいっぱいあり,正月3ヶ日はタコ祭りで祝うそうです。
島の資料館にはタコ漁の様々な漁具が展示されています。タコ漁が盛んな1950年代までは「釣り」が主流でした。
もちろんタコ料理。手際よくさばいていきます。脚は8本,Octopusの'oct'は8の意味です。
頭のように見えるのが胴です。中には鰓(エラ)があり,内臓が詰まっています。発達した目(単眼)を持つ頭は胴と脚の境にあります。口は足の付け根にあります。
脚が頭から出ているので,タコやイカの仲間を「頭足類(綱)」(Cephalopoda: cephalo=頭,poda=脚)と呼びます。
安楽寺の章魚(タコ)阿弥陀如来。
大昔,大地震によって近くの島が陥没しお寺の仏像も沈んでしまった。しかし,その後網にかかって仏像が引き上げられた時,一匹のオオダコが守るように絡み付いていた,と伝えられています。
島の中を歩くと石垣が目につきます。多くは島の崖に見られるような柔らかめの石ですが,所どころに固い花コウ岩(みかげ石)が挟まっています。花コウ岩は日間賀島にはなく隣の篠島(しのじま)から産出します。
上は知多半島。右が日間賀島,下が篠島。島間の距離は2km。南知多町ホームページから。
日間賀島には1,800万年程前の砂岩・泥岩・凝灰岩が互層になった地層が現れていて,篠島には非常に古い8,000万年前の花崗岩が露出しています。この硬い岩石は名古屋城の石垣にも使われました。日間賀島と篠島は2kmほどしか離れていませんが,静かな海の下には大きく異なった岩石をのぞかせるような激しい地殻変動が隠されているのでしょう。
 「タコ阿弥陀如来の伝説」の島が沈むような大地震は巨大な地殻変動を意味しているのかも知れません。
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中央構造線博物館ホームページから
渥美半島付近は関東から九州に延びる巨大な断層帯である「中央構造線」が通っています。日間賀島と篠島は共に内帯の領家(りょうけ)変成帯になりますが,断層をつくる大きなエネルギーが三河湾の海底にもかかっていたのでしょう。

2015年11月22日日曜日

野外学習―11月の千駄堀

 冬の千駄堀も雰囲気があります。ちょっと寒いのが良いのです。
中央の「光と風の広場」は万貫田(まがんだ)と呼ばれた水田地域を芝地にした広場です。
斜面林の上に千葉西病院がそびえ立ち,そこが台地になっているのがわかります。
斜面の下縁からは湧き水があふれ,一帯を潤していました。
万貫田の奥(上の写真の中央付近)にある湧き水の説明板。
ゴロゴロと据えられた石は人工物で,水の流れは無くかつての面影はありません。
パークセンターの説明図から
この図で,水色の矢印が集中するところが千駄堀です。
手前の建物群は「常盤平団地」です。千駄堀の周囲はほぼ開発され尽くしていることがわかります。
今回は自然観察園の解説員で昆虫が専門の深道さんが奥の湿地を案内してくれました。
爆発したようなガマの穂が,冬を象徴しているようです。
前回はうっそうとしていた湿地の一部が刈り取られていました。
植物の遷移を人工的に止めて,湿地の状態を維持しているのです。
水の中に根を張ったような状態の「ハンノキ」。
千駄堀では普通に見られる湿生植物で楕円体の球果でわかります。
「ハンノキ」 Alnus japonica
ブナ目 カバノキ科
この木を好んで生活しているのが「ミドリシジミ」です。
標本が展示されていました。
「ミドリシジミ」 Neozephyrus japonicus
シジミチョウ科
ハンノキの枝や幹に卵を産み,幼虫になって葉を食べ,葉の中で蛹(さなぎ)になり,成虫になります。
ハンノキにもミドリシジミにも日本を表す種名がついています。
実習の終わりは台地の上にある縄文の遺跡を見学します。
この台地からかつて海が広がっていた千駄堀を眺めていたことでしょう。
竪穴住居の中で博物館の専門家から説明をお聞きしました。
茅葺(かやぶき)本体は雨風に強く,囲炉裏の上の吊り棚には食物が保存され,思ったよりも広く機能的な住居ですが,平安時代まで使われていたとの説明に意外な思いをもったようでした。
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都市に残る自然は,人が関心を持つことによって維持されていきます。
訪れる人の「なぜ」や「なるほど」という感覚が支えのひとつです。



2015年11月15日日曜日

マリンマンマル(海生哺乳類)の泳ぐ川ー福島県喜多方市高郷町(化石研究会・巡検)

 福島県喜多方市高郷(タカサト)町を流れる阿賀野川。付近の河原から,大型の海生哺乳類が発見されています。
太古の昔,この山間の川をクジラやカイギュウ,セイウチが泳ぐ姿を想像してみましょう。
江戸時代の「会津石譜」とういう書物にもこの付近は化石の産地として記されていました。平成4年(1993年),当時の耶麻(ヤマ)郡高郷村はこの一帯を塩坪化石層として天然記念物に指定しました。
 塩坪層は泥岩(緑),砂岩(黄),れき岩(オレンジ),凝灰岩の層が100mの厚さに堆積しています。含まれる化石から1,000万年前(中新世後期)の海に溜まったこの地層であることがわかります。(地層は手前に向かって低くなり,右から左へ低く傾いています。同じ地表面でも時代の違う地層が現れます)
河原には「ポットホール」と呼ばれる穴があいています。岩石や礫が川の流れで回転してあけた穴です。
1973年,会津女子高校の生徒と小林昭二先生(写真)がポットホールの壁から発見したクジラの椎骨が塩坪層の哺乳類化石の第一号でした。
<たかさとカイギュウランドに展示されている化石>
その後もクジラ化石の発見は続き,頭蓋骨や耳骨からナガスクジラの仲間が含まれていることが分かりました。
堆積状況のサンプルとして現地に保存されているクジラの骨化石。
1980年以降の発掘によるカイギュウ化石の産出場所。
頭蓋骨を含む化石は,カイギュウ類の進化を探る貴重な標本となっています。
<高郷町所蔵のカイギュウ化石>
「アイズタカサトカイギュウ」 Dusisiren takasatensis (Kobayashi et al. 1988)
海牛目ジュゴン科ヒドロダマリス亜科 の新種です。
<ステラーカイギュウの1/2サイズ模型。実物は7mありました。カイギュウランドの展示>
ヒドロダマリス亜科(ダイカイギュウ亜科)は,北太平洋の冷たい海に適応して大型化し歯を失くしていった仲間で,1968年に人間によって狩り尽くされたステラー海牛を最後に絶滅種となりました。アイズタカサトカイギュウは進化の道を探る貴重な標本です。
<たかさとカイギュウランドに展示されている化石>
セイウチの祖先とされる「イマゴタリア」の上顎と上腕骨の化石。肉食の海生哺乳類の化石として貴重です。
高郷町は会津盆地をのぞむ越後山脈の一角にあり,太平洋と日本海のほぼ中央に位置し,標高400~500mの山間にあります。これほどの内陸に大型の海生動物化石が産出するのはなぜでしょう。
「目でみる日本列島のおいたち」 築地書館刊より
 1650万年前〜900万年前の日本の姿を復元すると多くの島で成立っていたようです。高郷町も海の中にあり,海の生き物が多数生息していました。1500万年前には活発な海底火山の堆積物(グリーンタフと呼ばれる)が層をつくり,その上に海生哺乳類化石を含む塩坪層が堆積しました(1,000万年前)。現在の阿賀野川はそれらの地層が隆起し陸上に現れた後に形成されたものです(200万年以降)。したがって,「阿賀野川ではクジラは泳いでいませんでした」。しかし今でも太古の生命を洗い出し,語りかけています。

2015年11月12日木曜日

比較動物学実習ー生物資源科学部にて

 比較動物学実習は神奈川県藤沢市にある日本大学生物資源科学部の獣医解剖学講座と付属博物館の全面的な協力を得て実施されます。
12学科に7,000名を超える学部生に加え,大学院と付属施設を抱えるキャンパス。
9:30,博物館前に集合。博物館の田中先生からご挨拶をいただきます。
博物館の骨格標本展示の特徴はガラスケースがほとんどないことです。
大型のクジラやキリンも間近に観察できます。
剥製と骨格を比較できる標本もあります。
多様な動物をこれだけの距離感でスケッチできる施設は少ない。
解剖学実習室で歯と骨学の実習。
天井に備えられた大型のクレーンが獣医解剖の現場を実感させます。
ウシ,ウマなどの大型家畜の頭蓋骨と歯は迫力があります。
疑問点は解剖学の先生に直接尋ねる。資料や実物を使った説明で理解が進みます。
スマホで撮った写真からスケッチをする学生が増加しました。
限られた標本数だからという理由ですが,特に歯のスケッチは目立ちます。
細部の観察が心配なので注意しますが,今後の研究課題です。
最後に,解剖を待つ動物を大量に収蔵している冷凍庫を見学しました。
お世話になった獣医解剖学の五味浩司教授(奥)と安井禎専任講師。
お忙しい中,丸1日のご指導をありがとうございました。
15:30,解散しました。実習ノートとレポート&感想の作成があります。
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ヒトの体や歯も,哺乳類の大きな視点から考えると新しい発見があるかも知れません。