2017年5月22日月曜日

南海の白い壁−琉球石灰岩

 久しぶりの沖縄,琉球石灰岩の壁が懐かしく感じられます。
梅雨空の那覇空港。白い壁が出迎えます。
太古の生き物がつくった石灰岩の壁。海の匂いがするようです。

空港から北に50km, 恩納(おんな)村の「万座毛(まんざもう)」は東シナ海に面した石灰岩の平らな台地。標高18m。突端が象の鼻に似ているのがユーモラスです。
「万座毛」は,万人も座する草原(毛)と説明されています。
「アダン」の赤い果実が目を引きます。
タコノキ科タコノキ属 Pandanus odoratissimus
野生の「コウライシバ」と周囲の植物群落は県指定の天然記念物です。
GoogleMapから
石灰岩は透水性のために川ができません。平坦な台地は侵食を受けないので崖になって終わります。
周囲の岩は海水と波の浸食で崩落し,波食台が広がって行きます。
「夫婦岩」と呼ばれる石灰岩の岩礁もいつか海底に転がり落ちそうです。
オーシャンタワーから古宇利大橋(1,960m)をのぞむ。
さらに北上して,今帰仁(なきじん)村の「古宇利島(こうりじま)」に来ました。
GoogleMapより
面積3.13km²,周囲7.9kmでほぼ円形の形をした島で3〜4段の海岸段丘が見て取れます。島の標高は107mです。
オーシャンタワーの駐車場の岩を見てみると明らかにサンゴの石灰岩であることがわかります。
これは貝殻の断面でしょうか。結晶の配列のように見えます。
琉球石灰岩といえばグスクの城壁です。
2000年に世界遺産に登録された「琉球王国のグスク及び関連遺跡群」の一つ,読谷(よみたん)村の座喜味(ざきみ)城。
重厚なアーチの門。地形に沿った曲線の城壁。
首里城(那覇市)の園比屋武御嶽石門(そのひゃんうたきいしもん)も世界遺産です。琉球石灰岩の代表的な建造物です。
門の後ろに本殿はなく,うっそうと広がる森林がそれにあたります。まさに神に続く門です。
首里城正殿内の書院。石灰岩に松を配し
海を望む庭園があります。
首里城内の井戸の一つ,「龍樋(りゅうひ)」。
琉球石灰岩は水を通してしまうため生活用水の確保は大変でした。石灰岩層の下の島尻層(泥岩の層)は不透水層で,ここを流れる地下水を引いて井戸にしました。首里城の標高は136mで井戸は120m付近です。ここが層の境界(不整合面)にあたります。
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琉球石灰岩の堆積時期は170万年前頃からと考えられます(多産するのは100万年〜 50万年前)。琉球列島の形成に関わる地殻変動と世界的な海水面変動によって海面下50m~100mで形成されるサンゴ礁が堆積し,地上に姿を現しました。(珊瑚)礁性石灰岩は生物と地質のつながりを探る鍵ともいえます。

2017年5月14日日曜日

「虫歯様」に会うー檜枝岐(ひのえまた)村

 ゴールデン・ウィーク明けの13・14日,福島県南会津郡に行ってきました。
南会津町から檜枝岐村へ向かう途中,伊南川の「屏風岩(びょうぶいわ)」に寄りました。
急流にそそり立つ白い岩肌に圧倒されます。
学部2年次に組織学でお世話になる非常勤講師(向かって右から:新美寿英先生,山本仁先生,平山勝憲先生)3人の先生にも大きさの比較になっていただきました。
檜枝岐村に入りました。「六地蔵」は秘境と呼ばれたこの地域の厳しい生活を物語っています。
村の2015年の人口は614人,村の約98%を林野が占め日本一人口密度の低い山村です。村役場の標高は939m,平均気温は7.7°C、平均降水量は1,600mm以上、最深積雪量は例年200cm前後で多い年は300cmを超えることもある豪雪地帯です。県内で唯一コメが作れない高冷地です。
かつてのメイン・ストリート沿いの町並みです。
電柱が見えますので1981年の只見川発電所完成以後の写真と思われます。
壁土がないために建物は板張りです。
通り沿いにはお墓が並びます。「星」「平野」「橘」の姓以外は見当たりません。
通りの一角に「虫歯様」と記された掲示板を見つけました。
お札を下げる木(右の高い木)を地元の方に教えていただきました。
今でも訪れる人は少なくないと聞きました。
 2016年1月の「檜枝岐村人口ビジョン」によると村には診療所(内科・小児科)が1つあり医師が1名,歯科医はいないとのことです。
「虫歯様」は現役なのです。
これは何だかわかりますか。
ジェラートですが。
トッピングは「ハコネサンショウウオ」(両生類)です。
貴重な地場産業であったサンショウウオ漁の保存を兼ねているとのこと。
生息環境の沢は大事に守られています。
カフェの二階は尾瀬の保護に尽力した植物学者・登山家「武田久吉」(1883-1972)の資料室になっています。緻密な調査ノートやカメラ,顕微鏡も展示されています。
尾瀬を代表する東北最高峰の「燧ケ岳」(ひうちがたけ:2,356m)は檜枝岐村にあります。
村の産業は尾瀬国立公園,温泉,檜枝岐歌舞伎を中心とした「観光業」の割合が突出しています。(林業が少ないことが意外です)
公衆温泉「燧の湯」から雪の残る舟岐(ふなまた)川を望む。

2017年5月7日日曜日

黄砂と地球磁場逆転ー野尻湖から

 ゴールデン・ウィークの最後に野尻湖発掘調査団の哺乳類グループ集会に参加しました。オオツノジカ化石の上腕骨を論文にする課題があります。
7日の朝,妙高山はいつもよりかすんで見えました。
周りの空気も透明感がないような気がします。
気象庁のHPから
数日前から予想されていた「黄砂」です。
4,5日に北京周辺で猛威を振るった黄砂は,関東地方を含めて広い範囲に影響が懸念されていました。
野尻湖ナウマンゾウ博物館に届いた6日の夕刊に,「チバニアン」の記事が1面トップで掲載されていました。
地球の磁場(N極とS極)が逆転する現象が地球の歴史の中で何度も確認されています。その一つが千葉県市原市の養老渓谷の地層「千葉セクション」に刻まれている証拠が固まり,重要な地層境界の「国際標準模式地」として申請するという記事です。
なぜ長野の新聞のトップ記事に?
国際年代層序表では,左上の0.781(78万年前)のところにはピンが打ってありません。
「更新世中期」となっていますが,ここに日本の地名「チバニアン」を冠しようというものです。実際に青銅製の「ゴールデン・スパイク」が地層に打ち込まれます。
小湊鉄道のHPから。磁気逆転層の写真。
境界を決定する重要な「鍵層」になったのが写真の「Byk-E」(白尾(びゃくび)層)の数cm幅の「火山灰層」です。
その中の成分やウラン(U)と鉛(Pb)の存在比を高精度で分析し,77万年前に噴火した長野県の「御嶽山(おんたけさん)」から飛んできて降り積もった火山灰であることを確実にしました。
GoogleMapから
御嶽山から250kmも離れた養老渓谷の地層に火山灰を運んだのは,中央アジアの砂塵を巻上げて日本の空に黄砂をもたらす強い風「偏西風」でした。
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今回は野尻湖発掘調査団の人類考古グループと同時期の集会でした。
 人骨という直接の証拠はまだありませんが,野尻湖人の姿と生活を追いかけています。
 オオツノジカの同じ部位も人類考古の目で調べます。
化石は地質学的背景を含めて多面的に解明されていきます。