2017年2月17日金曜日

イノシシの頭蓋骨をつくるー生物学・自由発表

   今日(2/17)は学年最後の「総合試験」。
準備の結果がついてきますように。
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試験終了後、自由発表の時間をとりました。
選択科目「生命の文化誌」の舘山馨・中沼祐汰・鈴木健斗・松本和之君たちの発表です。
哺乳類の頭蓋骨の構造がテーマです。
イノシシの頭(楠瀬隆生先生が提供・指導)の皮を剥ぎ、肉を落とし、骨にするまでの過程を説明していきます。手を動かして初めてわかることが多いのです。
少しずつ約3ヶ月間。洗浄し脱脂して、作業中に分離した骨を接合していきます。
(発表スライドから)
若いイノシシの頭蓋骨の標本が完成です。前後長約26cmでした。
(発表スライドを一部改変)
成獣と比較すると大きさがかなり違います。
雑食を示す鈍頭歯で、歯式は哺乳類の基本歯式と同じです。犬歯(牙)は無根歯で伸び続けます。しかし、乳臼歯(m)が3本であるのに、代生歯である小臼歯(P)が4本になっています。
クラスの仲間は試験終了後にもかかわらず、熱心にプレゼンテーションを見つめます。
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補足しましょう。
上:i:乳切歯,c:乳犬歯,m:乳臼歯,
下:I:切歯,C:犬歯,P:小臼歯,M:大臼歯
歯の交換に注目します。
今回の標本は第一大臼歯(M1)が萌出しています。第一小臼歯(P1)は顎骨の中にあり、このまま永久歯として萌出します。したがって”一生歯性”です。
         (乳歯列と永久歯列の比較。黄色の線はm1-m3の幅を示す)
若い個体(上:Juvenile)は顎も歯列全体もかなり小さいのですが、3本の乳臼歯(先行歯)の近遠心径の総和(m1-m3)は、成獣(下:Adult)の代生歯の近遠心径の総和(P2-P4)より大きくなっています。特に第三乳臼歯は長いのが目立ちます。これは交換時の萌出空間を確保するしくみです。
 ヒトにも同様の現象があり、(乳犬歯+乳臼歯)の近遠心径は(犬歯+小臼歯)のそれよりも大きく、その差を”リーウェイ・スペース(leeway space)”と呼んでいます。
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発表後にクラスの仲間が書いてくれた感想は、好意的な評価がほとんどでした。
後日、乳歯と永久歯の関係について確認するためにもう一度集合しました。

2017年2月10日金曜日

ラスコーの壁画ー洞窟のミュージアム


試験の採点で疲れました。金曜日、上野の科学博物館はナイト・ミュージアム,21時まで。「世界遺産 ラスコー展~クロマニョン人が残した洞窟壁画~」に急ぎました。
(科博のHPから)
  ラスコー洞窟はスペインのアルタミラ洞窟と並んで有名です。私達の祖先”クロマニョン人”が残した壁画は300箇所にのぼります。

ラスコー洞窟はヴェゼール川を見下ろす丘の上で1940年に発見されました。
発見者のマルセル・ラヴィダさん(89歳)はご健在です。
壁画が描かれたのは2万年ほど前と考えられ、最寒のウルム氷期にあたります。ヨーロッパ北部の広い地域は氷に覆われ、日本列島も海面が低下してアジア大陸と地続きでした。
(クロマニョン1号:3万年前)
(ラスコー洞窟から20kmのクロマニョン洞窟から1868年に発見)
 クロマニョン人は,5万年ほど前にアフリカを出たホモ・サピエンス集団のうち4万年ほど前からヨーロッパで生活していた人達です。アジアに向かったグループが日本人の祖先を形成しました。
復元されたクロマニョン人は,当然のことですが,私達と変わるところがありません。
今回、壁画を見ながら狩猟社会での槍(やり)の重要性を実感しました。
彼らが狩りの対象としたり、あるいは襲われて命を落とした動物たち。
その他に小動物も食料とした生き物がいたはずですが、壁画に描かれているのは限られた動物です。
洞窟の全長は約200mで3つのギャラリーがあります。
左上が入り口でその延長に「牡牛の広間」があります(この案内図には記載がありません)。壁画のためだけの洞窟。必要だったのはなぜでしょう。
「牡牛の広間」の写真です。発見当時の驚きが想像されます。
ラスコーの洞窟は1963年に壁画の保護のために一般には閉鎖されました。
そして、精密な復元をした公開用の空間「ラスコー2」をつくり,更に現地以外での公開のためにデジタル技術を駆使した最新の空間「ラスコー3」を完成させました。
洞窟に入ったような感覚になります。ライトアップされた壁画は明るさが変化し,ブラックライトで線画が浮かび上がります。
牝牛は大きく質感豊かに描かれ、遠くを見ているようで急ぐところがありません。
案内板の説明が理解を助けます。足元のマス目の意味は解読されていません。
この絵ではウマやバイソンに槍が刺さっているのがわかります。本数は狩に参加した人数かな。馬の槍は下からですが,向きも意味がありそう。
重ねて描かれているのは奥行きでしょうか,時代が異なるのでしょうか。
トリ人間だけが写実的ではない。そして、トリ型の投槍器(とうそうき)?。ケサイの尻尾に6個の黒点。バイソンからは腸がはみ出ている。ミステリアスな壁画です。
「泳ぐシカ」と呼ばれる絵は見上げるような高い壁面で、首だけが水面に出ています。
川を泳ぐ絵なら低いところに描いても良さそうですが。
躍動感と鮮やかな彩色。濃淡による遠近感。季節変化を表す赤い体毛。
重量感のあるバイソンが動き出しそうです。
(前出とも,エリザベット・デネス氏による復元)
 母親が子供の顔にペイントしています。生活に余裕が感じられます。ヒトが人間となっていく。母はフランス,子はイタリアの遺跡から出土した人骨をもとに復元されました。
様々な装飾品,毛皮や衣服を作るための精巧な骨製の針,精緻な彫刻をほどこした投槍器がクロマニョン人の豊かさ、可能性を伝えていました。
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(ホモ・サピエンスの様々な個体に観察されたネアンデルタール人由来のDNAの割合)
ヨーロッパにはそれ以前から「ネアンデルタール人」が生活していました(上の標本は6万年前)。
この2つの「人間」の関係は論争のタネでした。
 私達(現代人)のゲノム(遺伝情報)にはネアンデルタール人からのゲノムが1~3%入っていることがわかってきました。各人が異なるDNA断片を持つので,受継いだものはもっと大きな割合になります。”滅びた”ネアンデルタール人は”消えた”のではないようです。
クロマニョン人の生活と芸術はどのように受継がれ発展したのでしょうか。
帰りの空は,ほぼ満月でした。