2015年11月22日日曜日

野外学習―11月の千駄堀

 冬の千駄堀も雰囲気があります。ちょっと寒いのが良いのです。
中央の「光と風の広場」は万貫田(まがんだ)と呼ばれた水田地域を芝地にした広場です。
斜面林の上に千葉西病院がそびえ立ち,そこが台地になっているのがわかります。
斜面の下縁からは湧き水があふれ,一帯を潤していました。
万貫田の奥(上の写真の中央付近)にある湧き水の説明板。
ゴロゴロと据えられた石は人工物で,水の流れは無くかつての面影はありません。
パークセンターの説明図から
この図で,水色の矢印が集中するところが千駄堀です。
手前の建物群は「常盤平団地」です。千駄堀の周囲はほぼ開発され尽くしていることがわかります。
今回は自然観察園の解説員で昆虫が専門の深道さんが奥の湿地を案内してくれました。
爆発したようなガマの穂が,冬を象徴しているようです。
前回はうっそうとしていた湿地の一部が刈り取られていました。
植物の遷移を人工的に止めて,湿地の状態を維持しているのです。
水の中に根を張ったような状態の「ハンノキ」。
千駄堀では普通に見られる湿生植物で楕円体の球果でわかります。
「ハンノキ」 Alnus japonica
ブナ目 カバノキ科
この木を好んで生活しているのが「ミドリシジミ」です。
標本が展示されていました。
「ミドリシジミ」 Neozephyrus japonicus
シジミチョウ科
ハンノキの枝や幹に卵を産み,幼虫になって葉を食べ,葉の中で蛹(さなぎ)になり,成虫になります。
ハンノキにもミドリシジミにも日本を表す種名がついています。
実習の終わりは台地の上にある縄文の遺跡を見学します。
この台地からかつて海が広がっていた千駄堀を眺めていたことでしょう。
竪穴住居の中で博物館の専門家から説明をお聞きしました。
茅葺(かやぶき)本体は雨風に強く,囲炉裏の上の吊り棚には食物が保存され,思ったよりも広く機能的な住居ですが,平安時代まで使われていたとの説明に意外な思いをもったようでした。
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都市に残る自然は,人が関心を持つことによって維持されていきます。
訪れる人の「なぜ」や「なるほど」という感覚が支えのひとつです。



2015年11月15日日曜日

マリンマンマル(海生哺乳類)の泳ぐ川ー福島県喜多方市高郷町(化石研究会・巡検)

 福島県喜多方市高郷(タカサト)町を流れる阿賀野川。付近の河原から,大型の海生哺乳類が発見されています。
太古の昔,この山間の川をクジラやカイギュウ,セイウチが泳ぐ姿を想像してみましょう。
江戸時代の「会津石譜」とういう書物にもこの付近は化石の産地として記されていました。平成4年(1993年),当時の耶麻(ヤマ)郡高郷村はこの一帯を塩坪化石層として天然記念物に指定しました。
 塩坪層は泥岩(緑),砂岩(黄),れき岩(オレンジ),凝灰岩の層が100mの厚さに堆積しています。含まれる化石から1,000万年前(中新世後期)の海に溜まったこの地層であることがわかります。(地層は手前に向かって低くなり,右から左へ低く傾いています。同じ地表面でも時代の違う地層が現れます)
河原には「ポットホール」と呼ばれる穴があいています。岩石や礫が川の流れで回転してあけた穴です。
1973年,会津女子高校の生徒と小林昭二先生(写真)がポットホールの壁から発見したクジラの椎骨が塩坪層の哺乳類化石の第一号でした。
<たかさとカイギュウランドに展示されている化石>
その後もクジラ化石の発見は続き,頭蓋骨や耳骨からナガスクジラの仲間が含まれていることが分かりました。
堆積状況のサンプルとして現地に保存されているクジラの骨化石。
1980年以降の発掘によるカイギュウ化石の産出場所。
頭蓋骨を含む化石は,カイギュウ類の進化を探る貴重な標本となっています。
<高郷町所蔵のカイギュウ化石>
「アイズタカサトカイギュウ」 Dusisiren takasatensis (Kobayashi et al. 1988)
海牛目ジュゴン科ヒドロダマリス亜科 の新種です。
<ステラーカイギュウの1/2サイズ模型。実物は7mありました。カイギュウランドの展示>
ヒドロダマリス亜科(ダイカイギュウ亜科)は,北太平洋の冷たい海に適応して大型化し歯を失くしていった仲間で,1968年に人間によって狩り尽くされたステラー海牛を最後に絶滅種となりました。アイズタカサトカイギュウは進化の道を探る貴重な標本です。
<たかさとカイギュウランドに展示されている化石>
セイウチの祖先とされる「イマゴタリア」の上顎と上腕骨の化石。肉食の海生哺乳類の化石として貴重です。
高郷町は会津盆地をのぞむ越後山脈の一角にあり,太平洋と日本海のほぼ中央に位置し,標高400~500mの山間にあります。これほどの内陸に大型の海生動物化石が産出するのはなぜでしょう。
「目でみる日本列島のおいたち」 築地書館刊より
 1650万年前〜900万年前の日本の姿を復元すると多くの島で成立っていたようです。高郷町も海の中にあり,海の生き物が多数生息していました。1500万年前には活発な海底火山の堆積物(グリーンタフと呼ばれる)が層をつくり,その上に海生哺乳類化石を含む塩坪層が堆積しました(1,000万年前)。現在の阿賀野川はそれらの地層が隆起し陸上に現れた後に形成されたものです(200万年以降)。したがって,「阿賀野川ではクジラは泳いでいませんでした」。しかし今でも太古の生命を洗い出し,語りかけています。

2015年11月12日木曜日

比較動物学実習ー生物資源科学部にて

 比較動物学実習は神奈川県藤沢市にある日本大学生物資源科学部の獣医解剖学講座と付属博物館の全面的な協力を得て実施されます。
12学科に7,000名を超える学部生に加え,大学院と付属施設を抱えるキャンパス。
9:30,博物館前に集合。博物館の田中先生からご挨拶をいただきます。
博物館の骨格標本展示の特徴はガラスケースがほとんどないことです。
大型のクジラやキリンも間近に観察できます。
剥製と骨格を比較できる標本もあります。
多様な動物をこれだけの距離感でスケッチできる施設は少ない。
解剖学実習室で歯と骨学の実習。
天井に備えられた大型のクレーンが獣医解剖の現場を実感させます。
ウシ,ウマなどの大型家畜の頭蓋骨と歯は迫力があります。
疑問点は解剖学の先生に直接尋ねる。資料や実物を使った説明で理解が進みます。
スマホで撮った写真からスケッチをする学生が増加しました。
限られた標本数だからという理由ですが,特に歯のスケッチは目立ちます。
細部の観察が心配なので注意しますが,今後の研究課題です。
最後に,解剖を待つ動物を大量に収蔵している冷凍庫を見学しました。
お世話になった獣医解剖学の五味浩司教授(奥)と安井禎専任講師。
お忙しい中,丸1日のご指導をありがとうございました。
15:30,解散しました。実習ノートとレポート&感想の作成があります。
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ヒトの体や歯も,哺乳類の大きな視点から考えると新しい発見があるかも知れません。


2015年11月11日水曜日

ネコ(Felis)の名を持つクモーDictyna felis

付属病院の生け垣に,ポツポツと小型の網がかかっています。
形が定まっていないクモの巣です。
よく見ると,結構な数の虫がかかっています。
ボロ網とも呼ばれます。主人はどこ?
5mmほどの小型のクモ。背中の模様を頼りに検索すると・・
ネコハグモ Dictyna felis
節足動物門・鋏角亜門・クモ綱・クモ目・ハグモ科
Felisは哺乳類のネコ属のことですが,どこが似ているのでしょう。

2015年11月6日金曜日

高校生と歯を学ぶ

 埼玉県立和光国際高校で「総合的な学習の時間(理科)」の出張授業を担当しました。
テーマは「歯を知ろう―歯の解剖と発生」です。
ヒトの頭蓋骨を使います。授業の前に黙祷をして始めます。
骨と歯についての講義の後,歯列のスケッチをします。
歯列の形,歯の数,個々の歯の大きさと形。
短い時間ですが熱心に描いていきます。
比較のために動物の頭蓋骨や歯も持ち込みました。
歯の組織と発生の講義の後,次の実習に移ります。
ヒトの歯を200μほどに薄く研磨したプレパラートをのぞいて,
エナメル質の成長線を観察します。
成長線のひとつ「レッチウス条」は,歯のできる経過を木の年輪のように刻んでいます。
スケッチをしながらも,いろいろな質問がでてきます。
頭蓋骨にあいている孔のことや,歯の咬合面の凹凸のことや,動物の歯との違いなど。
新鮮な気持ちになります。
忙しく80分が過ぎ,黙祷をして終了しました。
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40人の生徒にとっては,初めての経験でした。
歯のことが少しでも記憶に残れば,お互いに良い勉強になったと思います。