2013年9月26日木曜日

ケヤキと黒い住人

 中庭には大きなケヤキが数本あります。
いろいろな生き物を住まわせています。夏は日陰になりますし。
バラ目ニレ科ケヤキ属
Zelkova serrata
ケヤキは葉脈が直線的で周囲の鋸歯が明瞭で,清々しい感じがします。
鋸歯は葉先に向かって曲がり,葉の先端は細く伸びます。
枝で休んでいるこのカラス,どうも構内に住んでいるようです。
クチバシや頭部の形から,ハシボソガラスのようです。
スズメ目カラス科カラス属
Corvus corone
つがいで見かけることがあります。
クスノキの樹冠にある,針金のハンガーでつくった巣の持ち主かも知れません。
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カラスはピョンピョンと飛び跳ねる移動と交互に脚を出す歩行の両方ができます。
カラスは知能の高い鳥で,生活や繁殖に直接関係のない”遊び”をします。
グランドに転がっていたボールで何度も玉乗りに挑戦しているのを目撃しています。

2013年9月22日日曜日

不思議なキノコ

 暑さの残る千駄堀。9月の自然観察実習の参加者は35名。リピーターが2名。季節ごとに生き物は変わります。
今回も「千駄堀を守る会」の皆さんに観察スタッフとして案内をお願いしました。植物、昆虫、クモ、野鳥と多岐にわたって入門から専門的な質問まで受けていただけます。
さっそく遊歩路の落葉の陰に白い小さな目立たないキノコを発見。学生も慎重に地面を掘っていきます。
全体が見えてきました。「冬虫夏草」と呼ばれるキノコの仲間です。
これは「ツクツクボウシタケ Isaria sinclairii」
子嚢菌類,バッカクキン目,スチルベラ科に所属。
 ツクツクボウシMeimuna opalifera(セミの1種)幼虫に取り付いて,それを栄養に生活している菌類。キノコといっても地上部は綿棒の先に白い粉がこびりついた様な形をしています。
地中の部分は菌糸がしっかりと巻き付いて幼虫は見えません。
どこにどのように入っているのでしょう。
 白い粉は分生子という無性胞子で体の一部が体細胞分裂で増えたものです。 
この先、ツクツクボウシタケはどうなるのでしょう。
  来月また見てみませんか。

2013年9月21日土曜日

樹皮に咲く

 前庭のハナミズキには別の植物が付いていました。
樹皮に数種のコケや白っぽい地衣類が取り付いています。
コケの中に小さい筒状の花のようなものが見えます。
コケの胞子嚢である朔(さく)です。花ではありません。
サヤゴケ
ヒナノハイゴケ科
Glyphomitrium humillimum
胞子が見えます。朔の中で減数分裂が起こり胞子がつくられます。
顕微鏡でのぞくと,とがった朔歯(さくし)と中までつまった胞子がわかります。
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胞子が細胞分裂(発芽)をして植物の本体(配偶体)になります。そこで造卵器と造精器を形成し,精子と卵をつくります。染色体数は半数(n)のままです。
サヤゴケは大気汚染にも強いコケといわれ,多種類の樹皮に生育しています。

2013年9月13日金曜日

秋の赤い実

 残暑がまだまだ厳しい。それでも秋が来ています。
花水木の葉がうっすら色付いてきました。
ハナミズキBenthamidia floridaズキ科
北米原産
赤い実が付いています。
実は子房の膨らんだものです。
目盛は1/5mm
硬い種子が実の中のほとんどを占めます。
未熟な子房の中には褐色の布のようなものが入っています。
胚珠でしょう。これから大きくなるのか,萎縮したのか。
網目状の細胞集団です。

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 ハナミズキはアメリカヤマボウシとも呼ばれ,明治時代に合衆国のワシントンに植えられたソメイヨシノのお礼として,日本に贈られたことはよく知られています。


2013年9月12日木曜日

種が判明


 スズメバチの種を同定できていませんでしたが,心配が的中しました。
オオスズメバチです。
 巣は幹の裂け目に縦に長く造られています。独特の縞模様です。全体のボリュームはわかりません。

 胸部と腹部の模様がわかります。腹部の先が黒なら性格のおとなしいヒメスズメバチでが,黄褐色です。胸の後部(小楯板)が黒ならコガタスズメバチですが,黄褐色です。
 付近で死骸を見つけました。黄褐色地に3個の単眼があります。頭楯(触角の下の板)は正中が凹湾し左右2つの突起があります。コガタススメバチなら真ん中を含めて3つの突起です。
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  オオスズメバチVespa mandarinia japonicaは世界最大のスズメバチです。この季節が最も活動的です。巣には近づかず,刺激せず,警戒が必要です。缶ジュースの飲み残しにも集まることがあります。(刺されたらすぐに病院での治療が必要です。)

2013年9月9日月曜日

巨木につどう

 3本のクスノキは生き物が集まるなかなか良い場所らしい。建物の裏にあって意外に目立ちません。よかったと思います。
鳥や虫が梢(こずえ)から飛出したり吸込まれたりしています。
 樹冠の上のほうに,大きめの鳥の巣があります。双眼鏡で見ると洗濯屋さんのハンガーが大量に掛けてあります。中心部は木の枝で造られているらしい。
家主の姿は見ませんでしたが、カラスの黒い羽が落ちていました。
 幹の裂け目にできた洞(うろ)からはスズメバチ(Vespa属)の仲間が這い出してきます。スズメバチは生態系の上位にいる捕食性昆虫で,5種類ほどが普通に見かけます。オオスズメバチ(Vespa mandarinia japonica)の可能性もあります。噛みつく力も毒の力も強力です。巣のある場所に人が近づくと防衛のために周囲を飛び回り,大顎を打鳴らしてカチカチという警戒音を出します。危険です。そーと離れましょう。振り払うような急な動きは刺激になります。黒い色や香水なども刺激になるようです。攻撃して刺すと,毒液だけでなく警戒フェロモンを出して仲間を呼び寄せます。働き蜂が多くなるこの時期には特に近づかない注意が必要です。
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 巨木の中や周囲では様々な生き物がそれぞれのやりかたで生活を送っています。むやみに足を踏み入れないことも必要です。お互いの幸せのために。(観察には双眼鏡が必須)





2013年9月5日木曜日

巨木がダニを飼う

 構内には何本も大きな木があります。そこでも多彩な生き物関係が成り立っています。
たとえば、
クスノキの大木です。
Cinnamomum camphora
クスノキ科ニッケイ属の常緑高木
枯れ葉:葉身の長さ10cm
葉脈が葉の付け根で3本に分岐しています。この分岐部に膨らみをつくって生き物を”飼って”いるのです。
 膨らみは「ダニ室」と呼ばれ,クスノキがダニのために作った部屋です。虫がつくる「虫えい」(虫こぶ)ではありません。中のダニはクスノキと共生していると考えられています。

断面をのぞいてみると確かに白い虫が動いています。
フシダニです。体長0.1−0.3mm,植物につくダニです。
クスノキは樟脳(しょうのう)の天然原料でもあります。
虫除けの葉に虫を飼う?なぜ?
対物40倍 2013.09.05 Kunihiro Suzuki
ダニ目フシダニ科Eriophyidae   
顕微鏡でのぞくと,2対の脚(他のダニは4対)を持つことがわかります。中央の丸い部分は生殖器でしょうか。未受精卵からは雄のみが,受精卵からは雄も雌も生まれます。

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 イタリアのドロミーティ山脈で2億3000万年前の琥珀(こはく:樹脂が化石になったもの)の中から見つかったダニ(Triasacarus fedeleiAmpezzoa triassicaは現生のフシダニに非常に近かった(ナショナルジグラフィック 2012.8)。しかしこの時代にクスノキのような顕花植物は地上にはありませんでした